オトナのオトモ日記

モンハンを主軸とする、ゲームブログです。小説も書いたり、たまに映画鑑賞日記も。雑食性です。

街のギルカ屋さん

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以前の日記にて。お友達から素敵なイラストをいただきましたが。実はこれ小説の挿絵用に、と描いてくれたものでして。

モンスターの生態 - ハーメルン

意外とあっさり思い付いたのでお話を書いてみました。イラストをくれたお友達のebiさんにもご登場いただきました。

↑の僕のお話『モンスターの生態』シリーズの常ではありますが、酷い役柄にさせてもらいました(*´﹃`*)えへ。

 

では、いつもより少し長めのお話ですが、どうぞ。お気に召しましたら↑の他の話も是非どうぞ。

 

モンスターの生態その14 街のギルカ屋さん

 

調査拠点アステラ。新大陸でモンスターの調査を行うための基地である。調査団しか住まない上にモンスターの巣食う新大陸の端っこの土地を開拓しながら少しずつ造った街なので、人口の割にはそれほど広くはない。それに加えハンターが使う武具やアイテムの素材、開拓のための建材など、多くの資材が行き交うために往来は常に混雑している。

 

さらに最近ではもう1つ、アステラの大通りを歩く際に気を付けなければブツかってしまう、危なっかしい存在が増えてしまっていた。

 

 

「むニャッ・・・・!」

前を歩いていた人物が急に立ち止まり、キョロキョロしながら歩いていたナダレは頭からブツかり、反動で後ろへ綺麗に一回転してしりもちをついた。

 

「う・・・・ニャア・・・・」

左右にピンと伸びたヒゲに砂がついていないか、丹念につくろいながら立ち上がるナダレ。青い毛に覆われたオトモ猫だ。主人が狩りに行っているので、自主トレーニングをサボって大通りを散歩しに来ていたところ、誰かにブツかってしまった。

いや、誰か、ではない。ブツかってしまったその瞬間にはナダレにはその相手が誰か分かっていた。

 

 

「前を歩いていたのエビさんだったのかニャあ・・・・」

んん?、と今さら気がついたのか、ナダレがブツかった人物が振り返った。

 

「あっは、ナダレだったんだこんにちはごめんねー」

流れるように挨拶と謝罪を重ねたのは、アステラの皆からエビちゃんと呼ばれているハンターだった。本名ではない。白衣のようなローブを羽織り、ウェーブがかかったピンク色の髪。高い声も手伝って、知らない人からはよく女性と間違われる。

 

「こんにちはニャあー。エビさんの触覚に気付いていればもっと気を付けて歩いていたのにニャッ」

そしてこちらも雌雄やたら分かりにくいオトモ猫。一応メスであるナダレ。

ちょっぴりからかうような仕草でナダレが指さしたエビの額には、鉢金が巻かれていた。その中心からは奇妙な触覚が2本、左右に伸び後方へ垂れている。この触覚がみなに『エビ』ちゃんと呼ばれる所以である。

 

ハンターとして新大陸調査団に加わったエビだが、学者としてモンスターの生態研究所にも所属している。さらには医者でもある、異常にマルチな能力を持つ若者なのだ。ゆえに普段から、学者のようなローブの形をした医者のような白衣を着て、額にはハンターのような鉢金を巻いているという、独特な姿で街を歩いている。

 

「あっはっはー、これは職業病のようなものだからさ、ごめんけど許してよ」

あまり悪びれずにエビ。謝りながらも、歩きだしはせず目もナダレのほうを向いてはいない。どう見ても許しを乞う者の態度ではないが、ナダレはやれやれと軽く首を左右に振るだけだった。

 

「ま、エビさんの事はみんな分かってるから良いけどニャ。今度は誰描いてるのかニャ?」

問いかけながらも自分で答を探すナダレ。キョロキョロと辺りを見回すと、すぐに目標を発見することが出来た。

 

「おぅ!ナダレ嬢よ。悪ぃが今日は俺っちが選ばれたみたいだぜ!」

雑踏の端、屋台のように荷物を広げて豪快に笑っていたのは、船乗り、現大陸との定期船を操る船長だった。海の男らしく上半身裸で、水揚げされたばかりらしい魚介を足元に、本人は綺麗な紅色をした珊瑚エビを掲げてポーズをとっている。

 

「今日はなんだか食べ物を含めたのを描きたくてねー」

エビはというと、手の中のスケッチブックに物凄い勢いで筆を走らせていた。

 

エビはハンターであり、学者であり、医者でもあるが。それよりなによりギルドカード屋として人気を博していた。ギルドカード屋、と言っても売るわけではない。勝手に本人のイラストを描いてギルドカードに貼れるようにして渡してまわるのだ。この街、調査拠点アステラに住む者は全員が本土にあるハンターズギルドに所属する『ギルド調査員』である。ゆえに、例外なくギルドにおける仕事、経歴、勲章などが記載された名刺である、『ギルドカード』を所持している。

エビが調査団に参加するまでは、誰しも殺風景な名刺としてしか使っていなかったが。彼がアステラですれ違う人々を勝手にスケッチしはじめギルドカードに貼り付けてやる、という事を始めてからはこの気紛れな若者が描いた絵が貼られたギルドカードを持つことがこの街でのステイタスとなっていっていた。

 

 

「ん。オッケーです船長。ありがとう」

どさくさに紛れて、船長が掲げていた珊瑚エビを受け取りながら、エビは一旦スケッチブックを閉じた。そのままナダレを見下ろすと、珊瑚エビを見せびらかすようににんまりと笑った。

 

「ナダレ、どうせトレーニングサボり中でしょ?一緒にお絵描きしないかい?」

 

「うニャッ♪」

ナダレにはどちらのエビも、その提案も。とても魅力的に思えた。

 

 

 

 

一旦雑踏を離れて食事場に移動すると、エビは清書用の別の用紙を、ナダレは落書き用の画用紙をそれぞれテーブルの上に広げた。

 

「あ、エビ食べるー?」

もぎ、と豪快に頭部分の殻を剥いだその状態のままナダレに差し出すエビ。この珊瑚エビという甲殻種は、火を通せば旨みが湧いて止まないダシ大名、生食では甘み弾けるスイーツ将軍と化す極上の食材なのだ。

ナダレも抗いきれずひとつまみ身を取ると、むしゃぶりついた。

 

「むっはー、こっちも描かないとねぇ!」

エビも共食いしながら、先ほどスケッチした船長ではなく、珊瑚エビのほうの調査報告書を分厚いハンターノートに描きはじめた。前のページにはブイヤベースになった珊瑚エビが描かれている。今日はその続きでスイーツとしての珊瑚エビの情報を追加、というところなのだろう。

 

「?エビさん、エビさん。珊瑚エビのイラストの隅に描いてあるマークは何なのニャ?」

ふと、ナダレが気付き肉球で指したのは、小さな2つのシンボルだった。

 

「水滴と・・・・こっちはニッパーかニャ?」

ナダレが適当にシンボルの意味を推測すると、エビはちょっぴり残念そうにかぶりを振った。

 

「惜しいね。水滴は当たってるんだけど、工具のニッパーじゃなくて、カニのハサミのつもりなんだ」

 

「あ、あーごめんニャそっちのほうが分かるニャ。」

すぐに理解できるシンボルを描きたかったのだろう、分かりやすく落胆するエビを見て、ナダレが慌てて話を進める。

 

「珊瑚エビだから、甲殻種を示しているのかニャ?でも隣の水滴?は?」

 

「水属性、さ。恐らくだけどね」

 

「恐らく?」

ナダレが可愛らしく疑問符を浮かべながら首を傾げると、エビは急に真面目な学者らしい顔付きに変わり解説を始めた。

 

「モンスターの属性は、彼らの攻撃からしかはっきりとは分からないんだ。しかも攻撃を実際に貰ってみてその時の防具の属性耐性を考慮に入れて、ね。でも命のやりとりを行うことになる狩猟に出掛ける時にそんな自ら攻撃されに行くのはリスクが高すぎる。事前に相手の攻撃属性への対策を練るには、推測するしかないんだ」

一気にまくしたてるエビ。かなり賢いほうではあるが、アイルーであるナダレにはついていくのがやっと。大粒の冷や汗をかきながらナダレは大きな目をさらに開いてエビの表情、手振りを必死に追っていた。

 

「その推測に重要なのが、この関連付け、というものなのさ」

珊瑚エビのイラストの隅にあるマークを指差すエビ。

 

「え、えぇーとつまり、甲殻種はみんニャ水属性だっていうこと??」

しどろもどろになりながらもなんとか話についていっているナダレ。これが別のオトモのオモチやネコノフだったら頭から湯気が出ている頃だろう。

 

「うん、だいたいそれで合ってるよ。もちろん、甲殻種イコール水属性とは言えないけれど、この珊瑚エビは現大陸にいる水属性のダイミョウザザミと比較的近縁、しかも水棲であるから水属性の可能性は高い、といえるわけだね」

 

「な、なるほどぅ・・・・」

かろうじて理解できたのか、興味深げに頷くナダレ。やはり頭が良いオトモは発想の飛躍も早い。すぐさま今得た知識を自分の主人の行動に当てはめて考えはじめた。

 

「ご主人は新大陸で活動を始めたとき、すぐにトビカガチの防具を欲しがってたニャ。新大陸に到着したばかりなのに、欲しい防具の特性を推測出来ていたってことかニャ?」

ヒュウ、エビが感心したように口笛をひとつ吹いた。ナダレの頭に手を伸ばし、優しく撫でてやると再びまくしたてるように解説をはじめた。

 

「その通り。モンスターの分類は何も種族や進化系統だけじゃない。狩猟のためにはむしろ攻撃属性のほうが重要だし、行動パターンを読み解き分類することでより戦闘に役立つ情報を推測できるのさ。それだけでなく、その素材を使ってつくる防具に付与されるスキルに関しても、推測が出来るというわけさ。今ナダレが言ったトビカガチは、本土に生息しているナルガクルガという飛竜に体型、行動がよく似ている。だからナルガ装備と同じような回避系のスキルがカガチ装備にも発動するだろうという推測は調査開始時からすでにあったようだね。他にも・・・・」

ハンターノートのトビカガチのページを開き、ジャンプ力を表現したであろう『脚』のシンボルマークを見せると、エビはその前のページを開いた。

 

ドスジャグラス。このモンスターの攻撃パターンの特徴、分類は何か分かるかい、ナダレ?」

突然クイズ形式になったエビだが、優しい彼はヒントを与えるように別ページもちらちらと開いて見せてやっている。ヒントページは『イビルジョー』だ。

 

「ニャ〜・・・・食いしん坊?」

ナダレもすぐにぴんときたようだ。

 

フードファイター、だよ」

 

「カテゴリの命名法考え直すニャ」

頭の良いナダレはつっこみも早い。

 

「んでも、面白いニャ便利だニャ。ドスジャグラスの防具には早食いスキルがついてたから、同じ・・・・フードファイター?のイビルジョー装備にも付いてる事が予測てきていたんだニャ」

 

「その通り。僕は学者でもあるからね。僕が描くイラストには全部こうやってシンボルマークをいくつか付け足して分類しているのさ」

全て解説するまでもなく、ナダレが理解してくれたので満足げに、そして自分のハンターノートのイラストを誇るかのように見せびらかし、エビは大きく頷いた。

 

すると、ナダレが今度はエビの言葉に別の疑問を見つけたようで再び首を傾げた。

「んニャ?全部のイラストにシンボルマークつけてるってことは、さっきの船長さんや、ギルドカードのイラスト描いてあげた他のハンターさんも分類マークを描いてるってことかニャ?」

おぉ!今度は小さく驚きの声をあげるエビ。そこに気付くとはやるね、ナダレ、と感心したようにつぶやきながら、今度はハンターノートとは別のギルドカード屋さんとしてのイラスト帳を開いてみせた。

 

「それもまたその通り。さっき下書きを描かせてもらった船長は当然水属性だろうね。食材を求める情熱はあるけれど、あの通り結構痩せてるからフードファイターではなさそうなんだよね」

 

「だからカテゴリ名」

再び小さくナダレのつっこみ。

 

「先月描いたマコノフさんは乗り物酔いの分類を追加しないとなんだけど、マークをどう描くか思い付かなくて困っているんだよ」

本人にとって不名誉なことでも容赦なく分類するたぐいの学者なのだろう、辛辣な悩みごとを告白するエビ。

 

「そーいえば、先週ウチのご主人のイラスト描いてくれてたニャ。あれは出来上がったのかニャ?スズナの分類はどうなってるのかニャ?」

ナダレの主人、女ハンターのスズナ。言われてエビがスズナのページを開くと、オトモアイルーに抱き付かれているスズナの少しデフォルメされたイラストの端に、シンボルマークは3つ描かれていた。

 

スズナさんは結構好奇心が強いんだよね。熱血ってわけじゃないけれど防具もトビカガチ以外では蒼レウスのものを好んで使っているし、火属性のシンボルマークがぴったりかなと思って」

エビの言うとおり、1つ目は燃える火が描かれていた。もう1つは、肉球マーク。

 

「ほら、あのヒトやたらアステラのアイルー達にモテるよね?本人も自他共に認めるアイルー好きだし、このアイルー好きカテゴリの分類も必須だよ」

確かに、とナダレも納得。しかしあと1つのマークは、奇妙な形をしていた。大きな円が2つ重なるように描かれている。

 

「この3つ目のマークは・・・・何なのかニャ?分からニャい・・・・うーん・・・・」

悩むナダレ。エビは相変わらず朗らかに笑いながら、またヒントを出してくれた。

 

「アイルーに抱き付かれてるのは何でかな?アイルー好き以外の、アイルーが抱き付きたくなる理由が、そのマークだよー」

うーむむむ・・・・と悩むナダレ。全く答が思い付かない様子に、しばらく静観していたエビは唐突に、しれっととんでもない答を発表した。

 

 

 

「ボインだよ」

「カテゴリ考え直せ」

本人よりも大きく強調されたスズナの胸に飛び込むアイルーという構図。セクハラこの上ないイラストをエビの手からもぎ取ると、ナダレはご主人に報告しようと全速力で走り出した。