祭とハッピとハッカ飴
だめ押しの本日3回目のブログ更新です。
ベヒーモスに歴戦王テオ、歴戦王クシャまで一気に出てきちゃったもんだからネタが大渋滞しておりまして。
実は遡ること2週間。アステラ祭を題材に「モンスターの生態」のお話を思い付いたのですが、形になったのがアステラ祭も終わりベヒーモスも倒した後だという(´﹃`Ⅲ)
ようやくの御披露目です。
https://syosetu.org/novel/94438/14.html
今回のお話、舞台はベルナ村のオトモ農場。湯たぽんが新大陸に移動してしまったので、ダブルクロスで大量に雇っていたオトモ達はベルナ村に取り残されてしまいました。
そんな中、新大陸へ湯たぽんと共に渡っていたオモチから、後輩オトモ猫のハッピに手紙が届きます。ちょっぴり腹黒なオモチの手紙に警戒するのは、ハッピの兄ハッカ。2匹はどんな目に遭ってしまうのでしょうか?
こんな顔しながら、ウチのオモチは腹黒です。可愛けりゃ何しても許されると思うなよ。
上記URLから小説ページに飛べます。「モンスターの生態」の他のお話や、「最後のハンター」や「賢者の力」シリーズなどもありますのでお気に召しましたらそちらも是非。
さて、それではお話スタート。
祭とハッピとハッカ飴
「兄ちゃん!新大陸ニャあ、アステラ祭とかいうのがあるらしいニャ!」
双子の弟、ハッピが喚きたてるのを、兄であるハッカは冷めた面持ちで聞いていた。
「祭といっても、アステラは調査拠点だニャ。そんニャ浮かれたイベントやるもんか。せいぜいボウガンの火薬を使って花火打つとかじゃーニャいかニャ」
このオトモ猫の兄弟、同じ空色の毛で耳も同じ丸耳、丸尻尾も同じで眼もそっくり。ただしハッカは右目が赤、左目が青なのに対して、ハッピは逆。そのくらいしか見た目の違いが無い兄弟がちゃんと見分けがつくのが、このテンションの違いのためである。
「うんニャ!絶対に花飾りとかオブジェ作ったりとか!セーダイに飾り付けするんだニャ!あとはお祭りのご馳走も!オモチセンパイからの手紙に書いてあるニャ、間違いニャい!」
新大陸から届いた、オモチのサイン(肉球スタンプ)が書かれた封筒を振り回し、なおも興奮しながらハッピが喚く。名前、法被(ハッピ)の通り、とにかくお祭り好きなオトモ猫なのだ。
「・・・・どこまでがオモチ君からの手紙の内容で、どこからがお前の妄想ニャんだろうな。ちょっと読ませてみろよ」
対して、どこまでも冷静なハッカ。名前の通りミント、つまり薄荷(和名:ハッカ)のようにクールなのだ。
そんな兄が手紙を奪おうと前肢を伸ばすのを遮って、ハッピは余計に興奮したように飛びはね始めた。
「これはオモチセンパイがオイラにあてて書いた手紙だニャ!兄ちゃんが読むモノじゃニャいニャ!」
なにやら、ムキになっているようにも見えるハッピ。なんとなくピンと来るものがあり、ハッカはそらぞらしく手紙とは反対の方を向くと、芝居がかった声音で語り始めた。
「そーいえば・・・・えーとそうだ」
インテリ然としてはいるものの、ハッカも結局はハッピの兄。頭の回転はけして早くはない。騙そうとしているのが見え見えの浮わついた口調で必死に話をでっちあげる。
「ア、アステラ祭ではえーと色んな出店があって、き金魚すくいならぬ、あれだ・・・・えっと"ヴォルガノすくい"が大人気らしいニャ」
「ニャ・・・・ニャんだってぇ!?」
「ほいっと」
「・・・・あっ」
不自然極まりない臭い芝居にあっさり騙されて、あっけにとられたハッピの隙をついてオモチからの手紙を封筒ごと奪ったハッカ。そのまま便箋を開く。
しかし・・・・
「ニャんで兄ちゃんがヴォルガノすくいの事を!」
「・・・・?えーとニャにニャに。"アステラ祭が始まってから、ご主人の湯たぽんはヴォルガノすくいばかりやってるニャ"だって。ってマジかこれ」
何故か口から出任せが図星となってしまった。
「"金冠サイズを倒したくて、竜結晶のロックフェスに入り浸ってヴォルガノすくいの毎日ニャ。竜玉も足りニャいらしくて、ジュラドトすくいもやりまくってるニャ"・・・・ニャんだこれ」
微妙に嘘と本当が入り交じっているらしき手紙を適当に読み飛ばすと、封筒を取り返そうとまとわりついてくるハッピを避けながらハッカは封筒の中を探り始めた。
コロン
「あっ・・・・」
しまったというように、ハッピが小さく声をあげた。ハッカも予想していたそれは、小さな紙に包まれた丸い塊だった。
「やっぱりニャ。隠そうとするニャら始めッからこれだけしまっとけば良いのにニャ、ハッピ」
「ぐニャぁ・・・・オイラの手紙ニャのにぃ」
包みを開いてみると、中からはピンク色の大きめの飴玉が出てきた。包み自体も手紙になっているようで、小さく文字が書いてある。
「"アステラ祭で売られてるのを見つけた、ハッカ飴だニャ。キミのお兄ちゃんにぴったりだからあげるニャ。クールばっかり気取ってニャいで、コレを食べてたまにはハジケると良いニャ、って伝えといて"だとさ・・・・ふぅん」
ハッピに宛てた手紙なのに、飴玉は1つだけ。それがなんだか悔しくて、あげたくなかったのだろう。ハッピがうらめしそうにハッカの前肢に握られた同名の飴を見つめている。
「アステラ祭で売られていた、ねェ・・・・ハッカ飴と言っても・・・・んーニャぁ・・・・」
慎重に、飴玉の匂いを嗅ぐハッカ。ミント(ハッカ)の香りはしない。
(コレを食べてハジケると・・・・か。新大陸では確か・・・・ということは・・・・よしッ)
ハッカは今までの考え込んでシワのよった顔を急に崩すと、ハッピに向けて前肢を差し出した。
「ホラ、やるよハッピ」
「え!?良いのかニャ!?」
パアァ、と眼を輝かせてハッピ。アステラ祭に行きたくて仕方ないハッピは、せめて祭の味だけでも体験してみたかったのだ。受け取るや否や、口の中にポイとハッカ飴を放り込む。
味を確かめるため舌で飴玉を転がす。アゴを突き出し眼は虚空を見つめ、なんとも間抜けな顔で数秒。
ボムッ
突然、ハッピの顔が普段の3倍の大きさに膨らんだ。飴玉を放り込んだ頬なんかは5倍にはなっただろうか。
眼を究極まで開いた間抜けな表情のまま、完全に停止したハッピ。口や鼻、耳からはモクモクと白い煙まで出ている。
「あぁ、やっぱりニャ。可哀想にハッピぃ・・・・」
いまだにクールなハッカは、ぱたぱたとハッピの顔をうちわであおいでやっている。ハッカはオモチのイタズラを既に察知し、ハッピの口の中での小爆発の理由も分かっていた。
「ハッカはハッカでも、薄荷(ハッカ)じゃニャくて発火(ハッカ)の飴じゃニャいか。オモチ君、殺す気かニャ」
こんな状態でも絶対に死んでいない弟をうちわであおぎ続けながら、ハッカは遥かな海の向こう、新大陸のオモチに呼び掛けるように虚空に向けてつぶやいた。
「クールだ、クールだって言われるけれど。ボクだってボクなりに新大陸にワクワクドキドキしてるんだニャ。ハッカの実は新大陸じゃ火薬の調合材料、てことは予習済みなんだニャ」
たまにはハジケろ、というオモチの手紙の一部だけでそれを察知できる程度にはハッカも定期船でもたらされる新大陸の情報に聞き耳を立てていたということ。アステラ祭に夢中になっている弟ハッピと同じように、ハッカも新大陸の植物や調合に夢中になっているのだ。
ワクワクの仕方は、人それぞれ、猫それぞれということである。